4年前がどうのこうの言ってる訳じゃねぇ。
あの時だって、すげー感動した覚えがあるけど、
ただ、今日は……それ以上だった。
牧野のマンションで4年ぶりに愛し合った俺たち。
あの時より確実に雰囲気も身体も女らしさを増した牧野。
そんなこいつに、俺は勝手な想像をして不安が頭をよぎったが、
いざ、牧野の中に入ろうとしたとき、昔ほどではないにしてもかなりそこはキツくて、
両腕で顔を隠しながら、
「やっ……だって……あの時から……してないから。」
と、恥ずかしそうに言った牧野の言葉が強烈に俺を喜ばせた。
何度目かの行為の後、疲れてベッドに沈み混む牧野の頭をそっと撫でて、俺はキッチンへと向かった。
「道明寺?」
俺の気配で牧野が起きたらしい。
「わりぃ、起こしたか?喉乾いたから……」
「冷蔵庫に飲み物入ってるから好きなの飲んで。」
「おまえは?」
「……あたしも飲もうかな。」
そう言って起き上がろうとするこいつ。
「いいから寝てろ。そっちに持っていく。」
俺は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、戸棚にある二つのグラスに注いだ。
そして、一気に1杯をその場で飲み干すと、もう一度グラスに注ぐ。
その時、ふと冷蔵庫に航空会社の封筒が磁石で貼り付けられているのが目に入った。
軽く手でなぞると中にチケットが入ってるのがわかる。
俺はその封筒を手に取り、牧野のそばに戻った。
「おまえ、どこか行くのかよ。」
牧野にミネラルウォーターが入ったグラスを渡しながら、俺はその封筒をヒラヒラしてみせると、
「あっ!ちょっとっ!返して。」
慌ててベッドに起きるこいつ。
その慌てかたが、なにかまずいもんでも見つかったガキみてぇで、俺は面白くねえ。
「なんだよ、マジでどこか行くつもりなのかよ。しかも、俺には知られたくねーってことか?」
「いや、そーじゃなくてっ!」
そう言ってベッドの上に座り込む牧野は、胸まで引き寄せた布団で体を隠しているが、むき出しの肩が暗い部屋でも白く浮かび上がる。
俺は床に落ちたブランケットを引き寄せ、牧野の肩にそっとかけてやり、こいつの隣に座った。
「おまえが行きてーなら行ってこい。
けど、…………約束は約束だからな。
俺はおまえとちゃんと恋愛がしてーんだよ。
だから、戻ってきたら約束しろ。
俺の彼女になるって。」
俺はそう言ってチケットを牧野に渡してやる。
すると、
「道明寺、……それ、もう必要なくなったの。」
牧野はチケットを見てそう言った。
「あ?」
「だから、そのぉー、…………そのチケットは使わなくて済んじゃった。」
えへへ、とはにかんで笑う牧野を見て、俺はそのチケットの封筒を開けた。
それはNY行きのチケットだった。
日付は明日の午後の便。
「試験に受かったら、あんたに会いに行くつもりだった。
毎年、毎年、願掛けのように合格発表前にチケットも買ってたのに、2年もダメで……。
やっと今年は無駄にしなくて済みそうって思ったのに、今度はあんたが帰ってきちゃうんだもん!
それにしても、どうしてNYまではこんなに高いのよっ。試験が終わった後必死にバイトしてやっと買ったんだから。
無駄にした3年分のあたしの労働はどうしてくれるのよっ。」
そう話す牧野を俺は信じられねぇ思いで見つめる。
「おまえ、バイトしてたのは俺に会いに来るためだったのか?」
「……うん。」
「受かったらおまえから会いに来るつもりだったのか?」
「……うん。」
「それって、…………いやっもう、…………」
「道明寺?」
言葉にならないと言うのは、こういう時のことを言うんだろう。
どんなに言葉を並べても、足りない。
どんな表現をしても、伝えきれない。
だから、たぶんこうするしかない。
大切な宝物をそっと腕のなかに包み込む。
壊れないように、
……でも俺だけがしてもいい強さで。
「愛してる、牧野。」
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