限りなくゼロ 20

限りなくゼロ

二人とも無言のまま歩き続け、表通りから脇道に入ったところで牧野が口を開いた。

「いつ帰ってきたの?」

「今日だ。」

「そうなんだ。知らせてくれればよかったのに。仕事で?」

「いや。
…………さっきのあいつ誰だよ。」

「あー、さっきの人?バイト先の先輩。」

「ずいぶん親しそうだったな。」

「そう?お世話になったから。」

そう話す牧野は、何かを思い出してるのか少し微笑んでいて、俺はそれに無性に腹が立つ。

「あいつと付き合ってるのか?」

「えっ!違う、違う違うっ。そういう仲じゃないよ。」
必死で否定する牧野。

「おまえは、そういう仲じゃないやつとでも手を繋ぐのかよ。」

「…………手?」

「ああ、さっき手繋いでただろ。」

一瞬ポカンとしてた牧野だが、すぐに何を言われたのかを理解したようで、
「あれは、手を繋いだんじゃなくて、手を握ったのっ。握手っ!もぉー、相変わらずバカなんだから。ちゃんと見てた?お互い右手を握りあってたでしょ?どう考えたって恋人がそんな手の繋ぎかたしないでしょ。」
呆れたように言うこいつ。

「うるせー、っつーか、なんでおまえまだバイトしてんだよっ!
もうバイトは完全にやめて勉強に打ち込むって言ってなかったか?」

「いや、そのぉー…………ちょっと事情があってこの時期だけバイトしてたの。」

「事情?なんだよそれ。」

「…………ナイショ。」

「あー、どうせろくでもない事情だろ。
さっきのやつが誘ったからか?
ったく、相変わらずフラフラしやがって。
ふしだらな女だなおまえは。」

「ちょっと!何よその言い方っ!
あたしがいつフラフラしたっていうのよっ。
あんたにだけはそんなこと言われたくないっ!」

「あ?おまえは俺がフラフラしてるって言いたいのかよっ!いつだよ、いつしたか言ってみろよ」

「もういい!もう知らないっ!」

気が付けば、牧野のマンションの前まで来てた。
四年ぶりに会って言いたかったことは、
…………こんな言葉じゃなかったはずだ。

会って抱きしめて「おめでとう」と伝えたかったはずなのに、
実際は、こいつの顔すらまともに見ていない。

「……あたし、もう行くね。」

「……おう。」

お互い背中を向けて歩き出す俺たちは、
やっぱりもう無理なのか。

俺は牧野と別れてさっき来た道を一人歩く。
もう目の前は大通りで手を上げればすぐにでもタクシーをとめられる。
だが、歩みを進めれば進めるほど、胸が苦しくて切なくて…………あいつに会いたくて堪らない。

どうしたって、このまま帰ることなんて出来ねぇはずなのに。

そう思った俺は、牧野のマンションに向けて走り出した。
あいつが怒っていようが殴ってこようが構わねぇ。
俺はあいつに伝えたいことがあるんだよ。
だから、だからもう一度…………、

そう思って全速力で走る俺の目線の先に、
脇道の暗い電灯でもわかる、こっちに駆けてくる牧野の姿が写った。

「牧野っ!」

「っ、道明寺!」

俺は走ってきた牧野を腕に抱き止める。

「帰っ……ちゃっ……たかと……思った。
ご……めん。んっ、うっ…………ごめんね。」

「おまえっ、…………泣いてんのか?」

首をブンブン振っているが確かにこいつは泣いていた。

「道明寺、あたし、……んっ……受かったよ。」
俺の胸に抱きついて、ギュッと体を寄せながら言う牧野。

「ああ、知ってる。」
そんな牧野の頭を撫でながら優しく返す俺。

「頑張ったんだから。」

「ああ、知ってる。」

「ほんと、すごく頑張ったんだから。」

「ああ。」
駄々っ子みたいに言ってくるこいつが無茶苦茶かわいくて、抱きしめる腕に力を入れる。

「でも、3年もかかっちゃった。ごめんね。」

「ああ、すげー長かった。
待って待って待ちくたびれた。
…………だから、もう待ったはなしだ。
約束だよな?受かったら俺とちゃんと恋愛するって。」

返事の代わりに、俺にギュッと抱きつく牧野。

「いつむこうに帰るの?」

そう言って、やっと俺の方を向いた牧野は、赤い目をして心配そうに聞いてきた。

「4年も待ったんだ。
少しぐらい恋人らしいことさせろ。」

四年ぶりのキスは甘くて俺の全身をトロトロに溶かしていく。
そう、これが最高の蜜の味。

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