いつもより二時間も早くオフィスに着いた俺を迎えたのは西田だった。
「おはようございます。
ジェットの用意は出来ております。」
早朝、理由も言わずただ『日本に行くから手配してくれ』と伝えた俺に、西田は忠実に動いてくれていた。
「サンキュ。
ババァはいつ出勤する?」
「もう、こちらに向かっております。」
俺が日本に行くということは、今日からのスケジュールに変更が出る。
一応、社会人としてババァに一言言っていく必要がある。
「ババァが着いたら知らせてくれ。」
西田にそう伝え、急ぎの仕事だけを片付けにかかった。
トントン。
「失礼します。」
「今日はずいぶん早い出勤ね。」
俺の顔を見るなりそう言ったババァ。
「社長、2、3日休みを貰えないでしょうか。」
無駄口をたたいてる時間はねぇ。
「…………。
何か急用かしら?」
「はい。」
迷わず即答する俺に、ババァは少しだけ顔を緩ませて、
「そう、わかりました。
あなたがいない間は私がカバーするわ。
あなたには借りがあるから…………。」
そう言って意味深に笑った後、内線の受話器を持ち上げ
「スケジュールの変更をしたいの。
ええ、…………ええそうよ…………」
秘書と打ち合わせに入った。
俺はそれを見て、静かにババァのオフィスを出ようとしたとき、
「司、牧野さんによろしく言ってちょうだい。
私からのお祝いは後日贈らせて頂くわ。」
それだけ言ってババァは再び書類に視線を戻した。
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プライベートジェットで日本に向かった俺。
どんなに飛ばしても日本までの距離は遠く退屈なはずなのに、あいつとの再会を想像すると寝ることさえも出来ねぇ。
電話で日本に帰ることを伝えようかと思ったが、
直接あいつに会って言いたい。
「おめでとう」の言葉を。
だから俺ははやる気持ちを抑えて、牧野に会えることだけを思いひたすら時間が過ぎるのを待った。
もうすぐ会える。待ってろよ牧野。
それなのに…………。
「ったく、ほんといつも捕まらねぇ女だなあいつは。」
無事日本に着いて数時間。
すぐに牧野のマンションに行ったが、あいつはいねぇ。
しばらく待ってみたけど帰ってくる気配もなく、
俺は滋にあいつの居場所を聞いてみた。
「司!元気~?
……………………
つくしなら、今日がバイト最後の日だって言ってたから送別会開いてもらえるって言ってたはず。
携帯はあの子持ち歩かないから繋がらないかもね~キャハハー、司、ガンバっ!」
マジで、ムカツク。
携帯は携帯しねーと意味がねーんだよ!
昔も今も、どんだけ俺に追いかけさせれば気が済むんだよあのバカ女はっ。
マンションの前から最寄り駅の改札がある駅の通りまで移動した俺は、そこのガードレールに腰を掛け、あいつが帰ってくるのを待つことにした。
地下鉄を利用するなんて確信はねーけど、このままじっとマンションの前にいるのにもイライラの限界に達していた。
ガードレールに座り腕を組んで待つ俺を、通りすがりの女たちが熱い視線で見ていくが、俺はそれを完全に無視すること30分、
俺の視線の先に、四年ぶりのあいつが写った。
四年ぶりに会うこいつは、
おかっぱ頭だったのが肩にかかるほどのセミロングになり、いつもジーンズ姿だったのが女らしいスカートに変わり、化粧っけのない顔が、少しだけ大人の女の顔に変わっていたが、
紛れもなく、会いたかった牧野だった。
俺は牧野の存在を目に入れながら、そばに行こうと立ち上がりかけたその時、
牧野の後ろに一人の男がいるのが目に入った。
どう見ても仲のよい知り合いで、牧野はそいつと楽しそうに笑い合い、そしてあろうことかその男と…………手を繋いだのだ。
それを見て、俺は今日1日溜め込んでいた怒りが最高潮にまで達した。
目線の先に二人を捉えたまま、まっすぐと近くまで歩いていき、
「牧野。」
そう低く静かに呼んだ。
「…………道明寺っ!」
俺の顔を見て、信じらんねぇものでも見たかのように、目をでかくして叫ぶ牧野。
でも、その手はまだ奴と繋がれたままだ。
「取り込み中わりぃけど、牧野と話がある。」
相手の男を睨み付けながら、最大限丁寧に言ってやる。
「あっ、はい。
牧野さん、もしかして…………?」
「…………はい。」
そう俺の分からねぇ会話を二人でしたあと、
「じゃあ、僕はこれで。
牧野さん、ほんとにお疲れ様でした。
いつでも遊びにおいで。待ってるから。」
「はい。ありがとうございました。」
牧野がペコリと頭を下げて、男も俺に軽く会釈をして去っていった。
残されたのは、気まずい雰囲気の俺ら二人。
とりあえず、
「行くぞ。」
そう言って、俺らはマンションまでの道を歩き出した。
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