大学4年目はNYに行くと決めた俺。
残された時間は1か月もなかった。
ここ数日はババァの帰国と重なり、唯一牧野と過ごせる大学のカフェテリアに足を運ぶことが出来ていなかった俺は、久しぶりに昼休憩に顔を出した。
いつもの場所にやつらがいる。
が、あいつがいねえ。
「牧野は?」
いつもつるんでる桜子と滋に聞くと、
「それが、ここ数日顔を見てないんです。
電話しても電波が届かないところにいるらしくて通じないし。
どうしたんでしょう、牧野先輩。」
桜子が心配そうに話す。
「大学にも来てねーのかよ?」
「そうみたいです。昨日、マンションにも行ってみたんですけど、会えませんでした。」
「でも、5日前まではつくし元気だったよ~。
だって、例のアイドルコンサートに一緒に行ったんだからっ。」
そうだった。
滋と一緒に行くと張り切っていたコンサートがつい先日だったはず。
「とりあえず、あいつから連絡あったら俺に知らせてくれ。」
まぁ、あいつのことだからまたバイトでも増やしたのかもしれねぇ。
もしかしたら、両親のいる実家に帰ってるのか。
だとしても、一応、一応、彼氏、いや元彼氏の俺に連絡ぐらいしてもいいんじゃねーのかっ。
その後、邸に戻ってからもソワソワと落ち着かねぇ俺に、
「大きな図体でウロウロしないでくださいな。」
と、タマから叱られながらも、
常に思考は牧野へと注がれる。
何度も何度も携帯を鳴らすが、繋がることがないそれに痺れを切らして、俺は牧野のマンションへと向かった。
夜の9時。
マンションの明かりは…………消えている。
部屋にいないのは確かなようだが、もしかしたらあいつが帰ってくるかもしれねぇと、そこから動くことが出来ず、結局一時間以上も寒空の中待っている俺。
ポケットに手を突っ込み、コートの襟元を立てて、寒さを忍ぶように下を向いていた俺に、
「…………道明寺さん?」
と、男の声がした。
その声に顔をあげると、懐かしい顔があった。
「おう、弟。」
「どうしたんですかっ?って、それより、道明寺さん記憶戻ったんですか?!」
「ああ。2か月前にな。」
「そうなんですか。良かった。」
そう言って、相変わらず屈託なく笑う弟。
「弟、牧野知らねーか?ずっと連絡が取れねぇから心配してんだ。」
「えっ、あっ、姉ちゃん道明寺さんに言ってないんですね……。」
不味い顔をして頭をかく弟。
それを聞いて、
「どういうことだ?あいつになんかあったのか?」
少し強めにでかい声を出る。
「いや、落ち着いて下さい道明寺さん。
実は姉ちゃん今入院してます。
腰の痛みが悪化して…………。」
弟の話では入院して3日目。
昨日までは両親も来てたが、仕事の都合で帰ったらしい。
今日は牧野に頼まれたものを弟が部屋に取りに来たところで、俺と会ったようだ。
30分ほど弟と話した俺は、
「弟、荷物は俺が届ける。」
そう話し、弟から牧野の荷物を預かると、病院へと急いだ。
弟に教えられた病室。
二人部屋らしいが、入っているのは牧野だけ。
もうとっくに面会時間は過ぎてるが、そこはちゃんと手を回してきた。
もともとここは俺も定期診察を受けている総合病院で、道明寺財閥からの多額の寄付金で最先端の医療技術が賄えているところでもある。
だから、事故で運ばれてきたときも、通院して検診を受けているときも、俺はこの病院では超VIPの有名人だった。
看護士も医師も俺を知らないやつはいない。
だから、この病室に来る前に、わざわざナースステーションに寄り、
「牧野つくしは俺の知り合いだ。今日は朝まで俺が病室で付き添う。」アピールをしてきた。
だから万全だ。
俺は今日は帰らない、牧野の側にいる。
病室をそっと開けると暗闇の中、カーテンで仕切られている。
奥のベットに近付き、カーテンを少しだけ開くと、ベッドに横たわる牧野の姿。
「…………牧野。」
眠ってるかもしれねぇと思ったが、小さく声をかけると、
首だけ少し動かして
「道明寺?」
と返ってきた。
やっぱり起きてたか。
そう思いながらベッドの横にある簡素な椅子に腰かけた。
「どうして?」
寝たままの格好で目線だけ俺に向けた牧野が聞いてくる。
「おまえのマンションの前で弟に会った。
なんで、連絡しねーんだよ。
滋も桜子もF3も心配してたぞ。」
ベッドに横たわる牧野を前に、柄にもなくすげー優しい声が出る。
俺のその言葉にコクコクと首だけ動かして聞いている牧野の目が赤い。
「いてーのか?」
「…………ううん。」
「ったく、嘘つくな。」
俺は着ていたコートを脱ぎ、その下のセーターも脱ぎ捨てた。
そして、薄いTシャツ姿になると、ゆっくりと牧野のベッドに体を滑り込ませた。
「っ!道明寺っ、なにしてんのよ!」
「うるせー、他の患者の迷惑だろ。」
「ちょっと!」
「いいから、動くな。」
俺はそう言って、牧野の頭の下に腕を通し、体を横向きにさせてやる。
そして、腰のところを優しくゆっくり撫でていく。
「痛くて眠れてねーんだろ?
俺がさすっててやるから少し寝ろ。」
「…………。」
「牧野、ごめんな。
俺のせいでこうなったんだろ?」
「違っ。」
弟からさっき聞いた。
俺が事故に遭ったとき、意識が朦朧として崩れ落ちる俺の体を、必死にこのちっせー体で支えた牧野。
その時に腰を痛めて辛かったはずなのに、自分は病院にも行かず、ひたすら俺の見舞いに来てたこと。
症状を放置してたことが祟って、今でも無理をすると激痛が走るらしい。
「さっきおまえの主治医と話してきた。
手術は必要ないそうだけど、毎日決められたストレッチをすることと腰に負担のかかることは極力させるようにって言ってたぞ。
どんだけ盛り上がったんだよ、コンサートっ。」
そう、今回の牧野の腰痛の原因は、コンサートに行って飛んだり跳ねたりし過ぎたことらしい。
「いや、そうでもないよ……。」
「そうでもなくて、こんな入院になるかよ、バカ。ったく。そんなに楽しかったのか?」
「…………ん、まあね。」
「無理して腰痛めて、将来子供産めなくなったらどうするんだよ。」
「っ、子供って、なんの話よ。」
「…………俺とおまえの話だよ。」
「…………。」
「なぁ、牧野…………、
俺はおまえが司法試験に合格するまで待つことに決めた。
それまで、俺もおまえに釣り合うような男になるために…………修業してくる。」
「…………修業?」
「ああ。……来月からNYに……行ってくる。
たぶんすぐには戻れねぇ。
おまえが司法試験に合格する頃には、いい男になってる保証はする。
だから、……だから、俺を信じて待っててくれねぇか?」
牧野が今どんな顔でこれを聞いているか分からないが、腕の中の牧野は確かに温かい。
「司法試験受からなかったらどうしよう。」
消え入りそうな声で呟く牧野。
「それは、頑張ってもらわなきゃ俺が困るんだよっ。おまえが言い出したんだからな、司法試験受かるまでは恋愛禁止だって。
自信がねーなら、撤回してもいいぞ。
俺は今すぐにでもおまえと恋愛がしてぇから。」
この頑固な牧野が自分で言ったことを撤回するはずがないことは俺が一番知っている。
そして、撤回しないくせに、更に俺を追い詰める発言をしてきやがる。
「ううん。撤回はしないっ。
合格するまでは勉強に打ち込むっ。
だって、…………ご褒美は一番欲しいものが手に入るって思うと頑張れるでしょ。」
「牧野、……それって、ご褒美は俺ってことだよな?
一番欲しいものは俺ってことでいいんだよな?」
「道明寺、うるさい。
患者さんに迷惑だから、声のトーンを……、
んっ………ん、やっ、…………道明寺っ、」
たぶん、まだ付き合っていない俺たち。
だけど、夜遅く病院のひとつのベッドに二人で入り込み、体をくっ付けあいながら濃厚なキスをする。
恋人とか、彼氏とか、そんな名称はどうでもいい。
現実に、今牧野に一番近いのは俺だから。
「やっ、ちょっと、道明寺っ!」
病室にくぐもった声が響く。
「動くなって、腰いてーんだろ?」
「だから、痛いからやめてって言ってるの!」
「おまえが暴れなきゃ痛くねぇから。」
「ん…………やっ、…………道明寺ぃ」
久しぶりに触る牧野の体。
病衣の下は硬い金具の下着もなく、手には弾力のある膨らみが吸い付いてくる。
「牧野、見せて。」
「っ、いや、ダメっ。」
その声を聞きながら、俺はそっと牧野の体を上に向かせ、乱れた病衣を捲し上げると、きれいなお椀型の胸が現れる。
俺は吸い寄せられるようにその胸に唇をのせた。
舌で転がすように頂を刺激すると、硬さを増すと同時に牧野から小さな声が漏れる。
この場所でどこまで許される?
そんなことを思いながら柔らかい膨らみを揉み、軽い抵抗をする牧野にキスを繰り返していると、
「道明寺、もう、ダメ。
ほんとに、これ以上は無理。」
と、ストップがかかる。
俺もその言葉に少しだけ冷静さを取り戻し、牧野の病衣を直してやるが、一度興奮した下半身はすぐには収まりがきかねぇ。
再び牧野を腕に抱き腰を擦ってやると、俺の硬く主張した部分が牧野に当たり、軽く腕で俺の胸を押し返してくる。
「しょーがねーだろ。男なら普通の現象なんだよ。好きな女の体さわってこうなってないやつの方がおかしいんだぞ。」
男の性を教えてやる俺に、
牧野が
「…………痛そう。」と呟いた。
確かにこれだけカチカチに硬けりゃそう思うかもしれねぇ。
「あ?…………痛くねぇけど、辛いかな。」
「…………辛い?」
「ああ。吐き出したいっつーか、解放させたいっつーか。
いやっ、おまえは分からなくていい。
男の問題だから、気にすんな。」
慌てて付け加えたが、女にこんなことを説明するほどデリカシーのない男じゃねぇ。
「いいから、もう寝ろ。」
そっと腕時計を見ると、もう12時を過ぎていた。
あと牧野といられるのは残り20日ほど。
そう思うと自然に腕に力が入る。
ギュッと抱き締めた俺に、
牧野が言った。
「明後日、退院するから、
そしたら、うちに泊まりに来る?」
こいつの心臓の音がすげー大きく伝わってくる。
どれだけ勇気を出して、どれだけ緊張して、この言葉を発したか。
だから、俺も一言返すのがやっとだった。
「ああ。待ったはなしだからな」
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