「また、牧野らしいとんでもない目標を立てちまったな。」
「でも、そうさせたのは道明寺さんのせいでもありますよ。」
「そうだな。司が牧野のことを忘れてほっとくから、牧野は勉強一筋になったわけだろ?」
「そうそう。男なんて信用できない。
自分の将来は自ら切り開くのよっ!
って、なったのもしょーがねーな。」
こいつら、好き勝手話しやがって。
大学のカフェテリア。
昼時にF3と桜子が集まって、俺を前に言いたい放題だ。
「でも、司法試験って、いくら牧野でもそう簡単に受からねーだろ。」
「法学部卒業とともに受かったとしても、あと2年はあるぞ。」
「それまで恋愛はおあずけだね、司。」
もうこれ以上、聞いてらんねぇ。
「うるせーーー!!おまえらっ!
類っ、嬉しそうな顔すんなっ! 」
せっかく記憶が戻って、晴れて牧野の彼氏に戻れると思ってた俺だが、当のあいつは勉強とバイトに追われ、全然俺の前に姿を見せねぇ。
ここ一週間、まともに会えるのはこのカフェテリアで昼飯を食うときぐらいだ。
今日も俺はここであいつを待っている。
そこに、滋と話ながらカフェテリアに牧野が入ってきた。
あいつの姿を見ただけで、顔が緩むのを抑えられねぇ俺。
「なぁ、牧野。
今日の夜、出かけようぜ。」
強引に隣に座らせた牧野に、俺はすかさず誘うが、
「無理。」
の一言で片付けやがる。
「何でだよ。」
「バイト。」
「おまえさ、バイトしすぎ。
おまえの両親も田舎でちゃんと働いてんだろ?
少しぐらい大学生活楽しめよ。
なぁ?俺とデートしようぜ。
うまいもん食って、映画でも見て、綺麗な夜景でも、」
「そんな暇じゃないし、あたし、これでも充分大学生活楽しんでるから心配しないで。
法学部の友達は知識が豊富で、話を聞いてるだけでも楽しいよ。あっ、あたしは全然入っていけないけどね。それに、カフェテリアのランチも安くて美味しいし~。ほんと幸せー。
家計は苦しいけど、大学生になってよかったぁ。
あたし、そういうわけで、大学生活満喫中だからっ。」
牧野の返事に、その場にいたF3と滋、桜子が気の毒そうに俺を見る。
やめろ、おまえらの視線がキツい。
「つくし~、そういえば来月のあの約束忘れてないよねー?」
滋が牧野に聞いている。
「もちろんっ。バイトも休みいれたから!」
いつになく目をキラキラさせてる牧野。
「あれって、なんだよ。」
俺が間に割って入ると、
「来月、つくしとアイドルのコンサートに行く予定なのー!」
滋も興奮気味。
「牧野にそういう趣味はねーだろ。」
あきらも口を開くが、
「そのアイドルっていうのが、滋ちゃんの友達なのよー。旧家のお嬢様なんだけど、その素性は内緒でアイドル活動してるの。
たまたまつくしのことを紹介したら、仲良くなっちゃって、是非一緒にコンサートに来てほしいって、チケットも送ってくれて。
ねっ、楽しみだよね~。」
「あたし、コンサートとかはじめてだからドキドキしちゃう。
滋さん、当日なに着ていこうっ。新しいスカートでも買おうかなっ。」
見たこともねぇぐらいテンション高めの牧野。
「おまえさー、俺とのデートにもそれぐらいウキウキしろよなっ。
俺がバイト休めって言っても絶対拒否するくせにもう来月の休みとったのかよ…………。
1回でいいからそんな風に目キラキラさせて、俺に会いたいって言ってみろよっ。」
かっこわりぃのは分かってるが、
好きで好きでどうしようもねぇのに、
デートさえもしてもらえないのかと思うと、
愚痴りたくもなる。
そんな俺の様子に、少し考え込んだ牧野が、
「道明寺も…………一緒に行く?コンサート。」
そう言いやがった。
「ぶっはぁー。」
「ぶっ!!」
同時にお祭りコンビが吹き出す。
「牧野っ、それはさすがにないだろっ。
司も可哀想なやつだな。
デートがアイドルのコンサートって…………。」
はぁーーー、いいさ、いいんだ。
おまえにとって、俺はそれぐらいの存在に成り下がっちまったんだよな。
どこぞのアイドルに会いに行く時間はあっても、
天下の道明寺司には会う暇がねえっていう女だったなおまえは。
俺は不機嫌なまま黙り混む。
その時、1時を示すチャイムが校内に流れた。
「あっ、もうこんな時間。
あたし、次の講義があるから行くね。」
そう言ってバタバタと牧野が立ち上がる。
そして、まだ不機嫌なままの俺に、
すげー可愛い笑顔で言いやがった。
「道明寺、明日もこの時間に会おうねっ。」
「お、おう。待ってる。」
情けねぇけど、俺の機嫌はお前次第だ。
明日も会える。
それだけで、満たされる。
「なぁ、あきら。
牧野は、天性の猛獣使いだな。」
「ああ。怒らせたり喜ばせたり、すごいテクニックだぞ。」
「ある意味、司よりも恐ろしい…………。」
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