俺らしくなく、悶々とした日々が過ぎていく。
考えれば考えるほど臆病になっていく。
記憶が戻ったと牧野に伝えたら、あいつはどんな顔をするだろう。
喜ぶか、いや困った顔をされるのが一番きつい。
そんなことを考えると、一歩が踏み出せない。
部屋のソファに深く沈み混んだ俺は、自然と目線があの本棚へと注がれる。
いつもあいつが立っていたその場所。
俺に忘れ去られた後も、毎日通ってきたあいつ。
今、逆の立場になって考えてみる。
俺が牧野だったら同じことが出来るだろうか。
「坊っちゃんはいつまで腑抜け人間でいるつもりですか?
もう、部屋にとじ込もって2週間ですよ。
そろそろ、正気に戻って下さいな。」
そう言って、ティーセットを持って部屋に入ってきたタマ。
「…………。」
「坊っちゃん、タマで良かったら相談にのりますよ。こう見えて、人生経験は豊富ですからね。」
俺を見てニヤッと笑うタマに、
老いぼれババァに相談することなんてねーよ、と思ったが、
「…………なぁ、タマ。
自分の幸せと、相手の幸せ、どっちを優先させるべきだ?」
まるでうわ言のように聞いていた俺。
「…………そうですね。
それは、やっぱり…………相手の幸せでしょうね。」
相手の幸せ。
それは、牧野の幸せ。
俺とのことを過去のこととして、前に進んでるあいつ。
それを、尊重すべき…………。
タマの答えは予想通りだったが、
「でも、坊っちゃん。
相手の幸せが何なのかは分かりませんよ。
それを確かめずに、諦めてしまっては二人とも不幸になる。
相手の気持ちも大切ですけど、まずは自分の気持ちに正直にならないと。」
そう言いながら、今しがた淹れたばかりのティーカップを俺の前においた。
「新しい紅茶の葉が届きましたよ。
また紅茶を飲む坊っちゃんを見れるとは、タマも生きてて良かったです。」
タマにはすべてお見通しだ。
タマにとっても牧野はかわいい孫のようなもの。
タマのためにも、自分の気持ちに素直に突き進むしかない。
久しぶりの大学。
休んでた分の単位を取り戻すため朝から夕方までびっしり講義を受けているが、
法学部の牧野とはキャンパスも離れていて、偶然出会うというチャンスは滅多にない。
あずさとももう一度きちんと話をするため、時間をくれと電話して、明日の夜会うことになっている。
牧野に想いをぶつける前に俺にはやることがある。
それから、堂々とあいつに会いに行きたい。
そう思っていたのに、
今目の前に……あいつがいる。
調べものをしようと校内の図書館に来た俺は、
目的の図書を持って、図書館の3階にある自習室に向かった。
夕方、日が沈み始めたそこは薄暗く、誰もいる気配がない。
勉強には最適だな、と思ったその時、部屋の奥の長机にあいつがいた。
数冊の参考書を開いたまま、左手を机に置きそこに頭を乗せるような形で…………眠っている。
遠くからでもわかる。
俺が会いたくて堪らない牧野だってことは。
俺はそっと近付き、静かに隣の椅子を引くとそこに座った。
距離にして30センチ。
眠る牧野は顔を俺の方に向けて、穏やかな寝息をたてている。
俺もそれを見て、自然と体が動く。
牧野と向かい合うように、右手を机に乗せそこに頭をおき、牧野を正面から見つめた。
1年半ぶりのこの距離。
少しだけ痩せたか?
前髪が少しのびたな。
そっと、牧野の前髪に手を伸ばし、震える手で横に流してやる。
『牧野、ごめんな。』
心でそう呟き、頬に手を伸ばしかけたとき、
…………類の顔が頭に浮かんだ。
やっぱり無理かもしれねぇ。
俺にとって、あいつは大事なダチだ。
牧野の頬まであと数センチ、というところで固まった俺。
それを見ていたかのように、自習室に類の静かな声が響いた。
「司、何してるの?」
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コメント
こんにちは~~
F2ブログからアメーバーそして此方へ飛んできました。
F2の時に何度かコメさせて頂きました。
そしてアメーバーではフォローにアメーバー申告もさせて頂きました。
バカな男&限りなくゼロ&小話楽しみに読ませて頂いています。
今の限りなくゼロ初めはつくしが可哀そうで切なくて、今は司がまぁバカだったから仕方ないですが、あずさとの事もちゃんとしないと、類結構司に意地悪してますね。でもその気持ちもわかります。この後の展開が楽しみです。此れからも楽しみに読ませて頂きます。
お越し下さいましてありがとうございます!
こちらに落ち着くまで色々と経由してきて下さり
申し訳ありません。
我が家の司くんは、バカでアホで記憶も飛んじゃう
事もありますが、基本つくし命の男ですので
その過程を楽しんで頂けると嬉しいです。
どうぞこれからもよろしくお願いします★