「西門さん、なんか変じゃありません?」
「……司だろ。」
急遽決行された温泉旅行。
私と西門さんがいなかった間に突然決まった話だったけれど、滋さんが言うには、最終的に行こうと言い出したのは道明寺さんだったそう。
それなのに、昨日の夜、夕食を目前にして突然帰ってしまった道明寺さん。
美作さんには「急に仕事が入った」とメールがあったそうだけど、何かが変だった。
温泉からの帰り道、西門さんの車に乗った私は迷った挙げ句、重い口を開いた。
「何か変じゃありません?」
たったそれだけの言葉なのに、
「司だろ。」
さすが西門さん。
「やっぱり西門さんもそう思いました?」
「ああ。
記憶が戻ったか?
でも、それならすぐに言うだろ俺らに。
あきらも特に何も言ってなかったしな。」
「そうですよね。
滋さんもいつも通りでした。」
そこまで言って黙り混む私たち。
その沈黙を破ったのは西門さんだった。
「三条はどう思う?」
「え?」
「もし、もしも司の記憶が戻ったら、またあの二人を応援するか?」
「…………。」
すぐに答えが見つからない私。
「西門さんはどうですか?」
「俺は、…………応援なんてしねーよ。」
私は少しだけ期待してたんだと思う。
どんな時も応援すると言う彼らの絆を。
「そうですよね。わたしも……」
胸が締め付けられような痛みを感じながら必死に言葉を繋ごうとしたとき、
「絶対応援なんてしてやんねぇ。
応援なんかしたら、あいつはどこまでも暴走するぞ。
そうなったら牧野が気の毒だしなっ。
三条、俺はこう見えて人を見る目だけはあるんだよ。
その俺が心底認めてるやつが、司だ。
あいつはどんなに回り道をしても、ちゃんと正しい道に戻ってくる。
記憶があっても無くても、どんなに回り道をしても、本能で動く男だ。
最後には牧野に辿り着く。
だから、俺は応援なんてしねーよ。
応援なんてしなくても、あいつは勝手に動き始めるはずだ。
まぁ、今回はなかなか動き出さねぇーけどな。
おせーんだよ。あのバカは。
1発思いっきり頭でも殴ってやったら、止まってる記憶も動き出すかもしれねーなっ。」
最後はいつものお茶目な西門さんに戻ったけれど、私はそっと窓の外の景色に視線を移す。
そして、西門さんに気付かれないように、
こぼれ落ちそうになった涙をぬぐった。
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