限りなくゼロ 6

限りなくゼロ

パーティーのあと、久しぶりに類と飲みにきた。
「司、このあと時間ある?」
珍しく類から誘ってきたから、F4で集まるのかと思ったが、メイプルのバーには類の姿だけだった。

「他の奴らは?」

「帰ったよ。今日は司と二人で話したかったから。」
真剣な類の顔に、俺は黙って隣に座った。

「さっきの本当?」

「あ?」

「あの佐々倉って女が言ってたこと。」

「あー、付き合ってるってことか?
本当だ。」

「違う。結婚がどうのこうのって言ってたでしょ。」

「……まぁ、はっきりはしてねーけど、このまま行けばそうなるかもな。」

その返事に、類はグラスを持ち、一口くちに入れるとガチャンと大きな音をたててそれを置いた。

「司、俺は返してって言っても返さないからね。」

「……何がだよ。」

「牧野のこと。」

「…………。」

「俺は相手がおまえだから諦めた。
すべてを捨てても牧野を取ると言った司を信じたんだよ。
けど、もう限界だね。」

「………あいつとは、きれいに別れた。」

「きれいに?
司のきれいって何?
俺は何があったか知らないけど、突然牧野が、
『もう諦める』って言ってきたことがあったよ。何があった?って聞く俺らに、すげー辛そうな顔で、『よく考えたらあたしの方が主人公の恋路を邪魔するやなやつなんだよね。』って。
おまえ何したっ!
おまえがすべてを捨ててまで手に入れたいと思ってた女に、どんな仕打ちをしたんだよっ。」

声のトーンは落としながらも、類の怒りが全身から伝わってくる。

「記憶がないとか関係ないよ。
おまえはやっちゃいけないことをした。
完全に牧野を失ったんだよ。」

「…………おまえに任せる。
類が幸せにしてやってくれ。」

俺はそう言って席を立った。

このときの言葉を今でも後悔してる。
事故から1年半たって激しい頭痛とともに記憶が戻った俺の前には、仲良く笑い合う類と牧野の姿がある。

いまさら『返してくれ』とは言えない。
それに、牧野が俺のもとに戻ってくるとも思えない。

牧野が、記憶が戻った俺をもう一度選んでくれるという自信もないし、これまで牧野にしてきた仕打ちは自分でもヘドが出るほど酷すぎた。

だから、

だから、俺は言い出せずにいる。

記憶が戻ったということを。

そして、ただひたすら耐えている。
牧野と類の仲睦まじい姿を。

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