『バイバイ道明寺』
あいつが俺の前から去って数ヶ月。
俺らはもうすぐ二十歳を迎える。
今日はあずさの二十歳のバースデーパティーが都内のホテルを貸しきって行われていた。
国内最王手の建設会社の一人娘だけあって、力の入れようがそこらのやつとは違う。
パーティー初盤に鮮やかなワインレッドのドレスで登場したあずさは、今日の主役だと言うのに終始俺のそばから離れずにいる。
そのため、あずさにお祝いの言葉をかけにきた奴らが揃って、俺にも声をかけていくのが鬱陶しくて堪らない。
「道明寺さんとあずささんは同級生でしたか。」
「同じ英徳大学でしたよね。」
「普段から仲がよろしいのですか。」
そんなぐだぐだとくだらない質問なんかしてないで、はっきり聞けばいい。
「あずさとは付き合ってるのか?」と。
そしたら答えてやるのに、
「そうだ。」と。
俺とあずさは、つい最近、正式に付き合うことにした。
いつだったか、二人で外を歩いてる時に、店のウインドウに俺らが並んで歩く姿が写った。
それを見てあずさが
「ふふっ、私たちって付き合ってるカップルみたいね。……本当に付き合っちゃう?」
そんなことを言ってきた。
それに俺は、
「ああ。いいんじゃね。」
そう答えたとき、あずさがすげー嬉しそうに笑ったのを覚えている。
その時、ほんの少しだけ誰かの顔とダブって見えた気がしたが、……思い出せねぇ。
それから、俺とあずさは一応、付き合ってる仲になった。
今まで興味を惹かれた女に出会ったことがねえ俺にとって、あずさの存在は空気のようなものだった。
まるで、F3と過ごしているような。
そんな心地よさを、恋愛と勘違いした俺は、こういう女となら将来結婚してもうまくやっていけるんじゃないかと思い始めていた。
パーティーが終盤に差し掛かって、やっと来客への挨拶回りも済んだところに、あきらと総二郎がやってきた。
「おう、お疲れ。」
「佐々倉、おめでとう。」
タキシードをビシッと着こなした奴らは相変わらず注目の的だ。
「おまえら二人か?類はどうした?」
俺の質問に少しだけ間を置いて、あきらが答える。
「あそこにいるよ。よろしく伝えてくれって。」
あきらが示す方に目をやると、そこには類と談笑する桜子と滋。
…………そして、牧野の姿があった。
久々に見るあいつの姿。
この場に相応しい上等なドレスに身を包み、会場の端に控えめに立っている。
「桜子さんも牧野さんもわたしが招待したの。
来てくれて嬉しいわ。」
あずさの声が聞こえるが、俺の視線は20メートル先のあいつ。
隣に立つ滋と話してるあいつは、片手にシャンパングラスを持っている。
「司?」
視線が固まったままの俺にあずさが声をかけるが、俺はそれに答えず動いた。
まっすぐに類たちがいる方へ距離を詰めていく。
あと数メートルのところで牧野が俺に気づき目線が絡んだ。
「司?」
類が俺に気付き声をかけたところで、牧野の正面に立った俺は、
「未成年。」
と呟きこいつからグラスを取った。
「…………え?」
意味が分からず戸惑う牧野に、
「おまえはダメだ。
未成年だろ。ジュースにしとけ。」
自分でもなぜだか分からないが、シャンパングラスを持つ牧野を見て体が勝手に動いた。
「司、もしかして、記憶…………」
と、あきらが言うが、
「あ?…………戻ってねーよ。
未成年が酒を飲むことを止めただけで、なんで俺の記憶が関係してんだよっ。」
そう言って俺は牧野から奪ったシャンパングラスを一気に飲み干した。
「司。ちょっといい?」
その声に振り向くと、そこには両親と一緒に立つあずさ。
あずさの両親に会うのは、何かのパーティー以来2度目だ。
F3と滋、桜子、牧野もあずさによって、
「大学のお友だち」と両親に紹介された。
そして、その直後、あずさの口から両親に告げられた言葉にその場の雰囲気が一変した。
「パパ、ママ、聞いて。
わたし、司と付き合ってるの。
大学を卒業したら結婚も考えてる。
許してくれるでしょ?ね、パパ。」
マジかよ……という目で俺を見るお祭りコンビを横目に、今度は類がシャンパングラスを一気にあけた。

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