限りなくゼロ 3

限りなくゼロ

あの日から、俺の前に姿を見せなくなったあいつ。

邸にも来なくなって3日目、
「坊っちゃん、つくしに何かありましたか。」
俺の部屋にコーヒーを持ってきたタマが鋭い目で聞いてくる。

「知らねーよ。」

「…………そうですか。
また坊っちゃんが意地悪したかと思いましたが。
つくしが来たら、あたしの部屋に寄るように言ってくださいな。
あの子の好きな甘栗が届いたんでね。」
そう言ってタマが部屋を出ていく。

そして、あいつを見なくなって1週間。
いつもの時間になんとなく部屋にいる習慣がついちまった俺は、今日も牧野がいつも来ていた時間にソファに座っていた。

片手には経営学のビジネス本。
そして、目線は…………部屋の端にある本棚。
そこは、いつもあいつが立っていた場所。

ソファに座る俺に何かを話しかける訳でもなく、近くに座る訳でもなく、ただそこで毎日20分ほど過ごして帰っていった牧野。

俺は、なんとなくあいつが読んでいた雑誌や本が気になりゆっくりと本棚に近付いた。
でけー本棚の約8割は俺の本で埋め尽くされている。
でも、その本棚の一角に牧野の私物だろう本が数冊綺麗に並んでいた。

それは、法学部の牧野らしく法律の本が大半で、他に数冊宇宙や天文学の本も混ざっている。
中には、付箋が付けられて赤線でラインが引かれた法律本もあり、牧野にとって大事な本なのは間違いない。

まじで、あいつはもうこの部屋に来ることはないのか…………。

それから更に1週間。
どいつもこいつも腹が立つ。

邸にいればタマが
「つくしはどうしてます?」
と、事あるごとに聞いてくるし、

大学に行けば、
「昨日、桜子とつくしと食事に行ったらすっごく格好いい人に声かけられちゃってー」
と、浮かれた滋の話に付き合わされ、

カフェテリアでは、
「牧野から過去問貸してくれって頼まれてるから、先行くわ。」
と、総二郎が足早に席を立つ。

どいつもこいつもあいつが当たり前のように生活に溶け込んでいて、そうでないのは俺だけだ。
しかも、今までは大学に来ればいつもどこかしらであいつを見かけていたはずなのに、あの日から全く見かけることもなくなった。

「…………あいつ、学校来てるのか?」
カフェテリアに残ったあきらと類になんとなく聞いてみる。

「ん?あいつ?」
あきらがなんの事だ?という表情で聞き返してくる。

「だから、…………牧野だよ。」

「牧野なら、今日も見かけたぞ。
昨日は遅くまで図書館でテスト勉強してたはずだ。」

「…………そうか。」

滋も総二郎もあきらも、いつも通り牧野と会っている。
会っていないのは俺だけか。
そう思って一つの考えにたどり着いたとき、それをそのまま類が俺にぶつけてきた。

「避けられてるんでしょ?」

「…………あ?」

「司、牧野に避けられてるんでしょ。
そうされるようなこと何かしたの?」

「……関係ねーだろ。」

「…………そうだね。
牧野もそろそろ限界だと思うし…………。

……司、ひとつ教えてやろーか。
おまえはすごい勘違いをしてるよ。
牧野は俺らの言いなりになるような女じゃない。自分で決めたことは絶対に曲げないような融通のきかない女なんだよ。

だからさ、恋人に自分だけ忘れられてもひたすら会いに行った。
どんなに辛くても笑って会いにいった。

けどな、牧野がもうおまえに会わないって決めたら、どんなにおまえが会いたくてもあいつは受け入れないやつだ。

おまえはそれがわかってない。
いなくなって気付いても遅いんだよっ。」

最後は語尾を強めて席をたった類。

「っ、なんだよ、あいつ。」

そう呟いた俺の肩に手を置いてあきらが言った。

「早く思い出せ、司。」

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