小話 (坊っちゃん 2)

小話

道明寺と付き合うようになってから、
遠距離で不安になった事はあるけど、浮気を疑ったことは一度もない。

だから今回も、本気で怒ってる訳じゃない。

ただ、これが逆の立場だったら、
たぶんあいつは物凄く怒っただろう。
男と話すな、笑いかけるな、出歩くな!
その言葉を今回そのまま道明寺に言ってやりたい。

だから、焦った声で「会いたい。」なんて言ってくる道明寺が激辛レアで、
少しだけ笑いを押し殺して
「嫌。」と突き放してやった。
一日だけ反省しなさい!

そしたら次の日、珍しくタマさんから電話があった。

「つくし、久しぶりに邸においで。」

「え?」

「坊っちゃんの味方をするつもりは全然ないよ。
ただ、弱ってる坊っちゃんを見るのはこのタマも辛いからね。
話だけは聞いてやっておくれ。」

なんだかんだ言って、道明寺に甘いタマさん。
電話を無視しただけで道明寺が弱ってるなんて大袈裟だろうけど、
あたしもこの状態を長引かせるつもりは最初からない。

仕事が終わった後、道明寺には内緒で邸にお邪魔することにした。

道明寺はまだ帰って来ないだろうから、
タマさんの部屋でまったりとお茶タイム。

この部屋はいつ来ても寛げる空間。
学生の頃、あたしがこの邸でバイトをした時から
変わらない憩いの場所。

「坊っちゃんから何か聞いたかい?」

「何かって?」

「だから、写真の相手についてだよ。」

「たしか、いとこだって言ってましたけど。」

「ああ、そうだよ。あの子はひかるさんって言って、楓奥様のお兄さんの子供。
ずっとアメリカにいるけど、夏休みだけ時々帰ってくるんだよ。」

「へぇー、初めて聞きました。」

道明寺にそんないとこがいるとは初耳だった。

「まぁ、ひかるさんも坊っちゃんと同じように、小さな頃から大きな邸で一人ぼっちだったからね、坊っちゃんもあの子のワガママはある程度聞いてやるつもりなんだよ。」

「そっかぁ、そうなんですね。」

タマさんの話にコクコクと頷きながら、タマさんが淹れてくれた抹茶を飲む。

と、その時、
あたしの手から抹茶のお椀がグラリと傾き、見事に胸からお腹にかけて抹茶をぶちまける大惨事。

「わぁっ、やっちゃった!」

「あらあら、全く。
熱いお茶じゃなくて良かったよ。
それにしても、よりにも寄って今日は白い服だね。」

そう、今日のあたしは白いリネンのワンピース。
その大部分が抹茶の深い緑に染まってしまった。

「とにかくすぐに洗ってあげるから脱ぎなさい。」

「えっ、でも、これ脱いだら着替えが……。」

「そうだね。あたしの服じゃまずいだろうし。」

流石にタマさんの服を借りるわけにはいかない。

すると、
「これならつくしでも着れるんじゃないかい?」
と、タマさんが不敵な笑みで指差すのは、

道明寺家のメイド服。

「えっ!これはちょっと」

「なに、昔は着てただろつくしも。」

そうだけど、あれはもう7年も前の事で、
今更ラブリーなメイド服は着る勇気がない。

「無理無理っ、ムリですよ!」

「洗って乾くまでの間だけだよ。
坊っちゃんが帰る頃には間に合うから心配ない。」

そう言って、タマさんに強引に着替えさせられたあたしは、
久しぶりに道明寺家のメイド服に包まれた。

つづく

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