バカな男 13

バカな男

「月が綺麗だな。」
あのメールが送られてきた日からずっと、
同じような時間に道明寺からメールが送られてくる。

それはいつも短い文で、まるで独り言のようなもの。
今日もまた寝る寸前に、

「おまえがNYで見た映画、日本にもやっと来たな。」
そんなメールが届く。

あたしは一度もそのメールに返事をしたことはない。
でも、メールホルダにたまったあいつからのメールを、どうしても消せないあたし。


俺はあの日、牧野に
「月が綺麗だな。」と、メールを
送った。

部屋に戻った俺を、満月が出迎えてくれて、それはそれは綺麗な月だった。
思わず窓際に寄り、一人
「綺麗だな。」と呟いた。

もしも、このまま牧野と会えなくなったとしても、最後にあいつにどうしても言いたい。

「愛してる。」と。

でも、それを言えば更にあいつを苦しめることになるだろうか。

だから俺は、賭けた。
国語の教師のおまえになら伝わるだろうと。

「月が綺麗だな。」
「おまえを愛してる。」


その日、学校が終わったあと、いつものように
8時頃帰宅したあたしは、夕飯とお風呂を済ませ、部屋でくつろいでいると携帯が鳴り出した。
知らない番号だったけど出てみると、あたしが担任をしているクラスの生徒の親からだった。

生徒がまだ家に帰ってきていないと言う。
時計を見ると、10時半。
連絡もなしにこんなに遅くなることはないし、
携帯も繋がらないと。

とりあえず、あたしは学校付近を見てまわると伝え電話を切り、慌てて家を出た。
学校に着くと、隣のクラスの同僚教師も待っていてくれて、二人で探しまわるが見つからない。

学校付近から少し足を伸ばし、繁華街に出てみて、カラオケ、ボーリング、ゲームセンターも見てみるが、どこにもいない。
二時間近く二人で探し回ったが見付けられなく、落胆しているところに、教頭から電話が入り、
「親御さんから生徒が帰宅したと連絡がきた。
友達の家にいたそうだが、本人も反省しているし、時間も遅いので、詳しいことは明日聞くことにしよう。」と。

もう日付も変わり、クタクタだったあたしは、同僚教師の車でマンションまで送ってもらうことにした。
あたしも疲れてぐったりだったが、彼も新婚なのに「災難だったね」なんて話ながらマンションの前に着いたとき、

マンションにあのダックスフンドみたいな車が止まっているのが見える。

まさか…………ね。

あたしが車から降りると、そのダックスフンド、いやリムジンの横に
道明寺が立っているのが見えた。

「道明寺?」

「おまえ…………どこ行ってた?」

「どこって、…………ちょっと。」

そう言って、同僚教師の車を見ると、
道明寺が彼に鋭い視線を投げた。

「な、なんかあったの?」

「滋がおまえに何回連絡しても出ねぇから心配して俺にかけてきた。」

「えっ?!」
あたしは慌てて携帯を取り出すと、そこには10回以上も滋さんからの着信。

「気づかなかったの!ごめん。」

「……滋に連絡してやれ。
牧野…………いや、いい……」
なにか言おうとしてやめた道明寺は

「西田、行くぞ。」
そう言って、リムジンに乗り込んだ。

リムジンと同僚教師の車が同時に左右に別れて
走り出すのを眺めていたあたしは、

「タイミングわるっ。
完全に誤解されたよねっ。」
と、呟いた。

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