バカな男 11

バカな男

牧野との約束の日曜日。
意外にもあいつが指定してきた場所は美術館だった。
美術館の入口に入っていくと、すでにあいつが待っていて俺を見つけると
「これ」と言って1枚のチケットを渡してきた。
「これ、見たかったの。付き合って。」
それは、今、美術館で開催されている古書を集めた美術展のチケットだった。

牧野に誘われるがまま俺はあとについて中に入る。
古い図書や掛軸、屏風など様々なものが展示され、どれも俺には読み取ることが出来ねぇくらいの漢文が記されている。

俺は隣に立つ牧野をチラッと見ると、その視線に気づいたこいつは
「漢文の授業があって、勉強のために見に来たかったの。」
周りに気を使い小声で話す。

館内をたっぷり時間をかけてまわる牧野の後を俺もゆっくりとついて歩いた。
すべて見終わるのに約一時間はかかったかもしれねえ。
俺にとっては未知の世界だったが、こいつのあとについて歩いて見ている内に、なかなか興味深く、最後には食い入るように見ちまった。

そんな俺に牧野も
「面白かったでしょ?」と聞いてきて、
「ああ。たまにはいいな」と返した。

美術館の外に出て、隣接される公園を二人で歩く。
ほとんどひとけもなく、木陰になったベンチに並んで座った。
お互い真っ直ぐ前を向いて何も話さねえ。
その時、牧野が切り出した。

「道明寺、もう二人で会うのはやめにしよう。」

「俺はおまえとやり直すために日本に帰ってきた。」

「……私の気持ちはもうあの時電話で言った通り。…………あんたとはもう付き合えない。」

「おまえはあの電話で別れたつもりでも、俺はそうは思ってねぇよっ。
まったくおまえは……電話も拒否するし、あげくに携帯変えるしよっ。
俺たち、きちんと話そうぜ。」

「…………。」

「俺、おまえに別れたいって言われて、目が覚めた。おまえが言う、恋人ごっこっていう意味がわかったよ。
俺はおまえに恋人らしい事を一つもしてやれなかった。
これからは、おまえのために努力する。」

「道明寺、あんた誤解してる。
あたしはあんたに何かしてほしい訳じゃない。」

「わかってる。
けど、この6年離れてた分おまえに時間を使いたい。」

「…………もう、遅いの。
あたし自信がない。あんたを好きだって、一緒にいたいって気持ちに。
あんたもきっとそう。
あんたの生活にあたしは必要だった?
あたしを思い出すことはあった?
どうしても一緒にいたいと思ってた?
あたしたち、お互い気付かないようにしてただけ。好きだって思い込んでただけ。
勘違いしてたの……。」

「勘違いなんてしてねぇーよ。
俺はおまえと出会ってから1度も自分の気持ちに迷ったことはねえ。
今も変わらず、おまえが好きだ。」

「道明寺、ごめん。
…………あたし、幸せな恋愛がしたい。」
小さく呟く牧野。

「幸せな恋愛ってなんだよ。」

「…………好きな人と想い想われて過ごしたい。……もうあんな思いは嫌なの。」
牧野の声が震えるのがわかる。

「牧野?」

「いつ来るかわからないメールの返信を待ったり、いつ会えるかわからないのに誕生日プレゼントを選んだり、好きでいてくれてるかわからない人に会いに遠い国に行くのは…………辛い。」

「牧野。」

俺は堪らなくなってこいつを抱き締めた。
「ごめん。ほんとにごめん。許してくれ。
おまえのためならなんでもする。」

そう言って、強く抱き締めた俺の腕の中で、
最後に牧野が言った。

「あたしと別れて下さい。」

日が暮れてだいぶあたりが暗くなってきた。
俺はもう何時間、一人ここに座ってんのか。

あいつの涙で濡れた顔を思い出す。

『おまえのためならなんでもする』

その答えが

『あたしと別れて下さい』

その言葉だけが、何度も頭をリピートする。

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