いつものメンバーで飲んだあと、店の前で滋の車に一緒に乗り込もうとしてる牧野の肩を掴み、
「牧野は俺が送る。」
と言うと、牧野は戸惑ったような顔をしたが、俺は気付かねぇ振りをして、滋の車のドアを閉めた。
F3がニヤつきながら、俺の肩を叩き、
「またなっ。」「おつかれっ。」
と、去っていく。
残された俺と牧野。
「行くぞ。」
牧野が何か言い出さねぇうちに俺は歩き出す。
少し遅れて黙って付いてくるこいつに、歩調を合わせるようにゆっくりと夜の街を歩いた。
数ヵ月前の俺らなら、自然にてを繋ぎ、体を寄せあい、流れでキスぐらいしてたかもしれねぇ。
けど、今はしたくても出来ない関係になっちまったことが、むなしい。
そんなことを考えてると、
「道明寺、車は?」
「あ?車は帰した。」
「えっ?じゃあ、送るって……?」
「電車のろーぜ。電車。」
「電車ってあんた。地下鉄のこと?」
「あー、地下の電車だよっ。おまえいつもそれ使ってんだろ?」
「はぁーー。使ってますとも、地下鉄を。
でも、あんた、それって送るって言うの?」
「家まで送るけど、車だとはいってねーよ。」
「バカ。ほんとバカ。
滋さんの車に乗ってけばよかった。」
「もうおせーよっ。行くぞ。その地下鉄ってやつ、俺乗ったことねぇから案内しろよ。」
「もぉーー!」
信じらんないって俺を睨み付けてくる牧野が、めちゃめちゃ可愛くて、プッと吹き出すと、笑うなクルクルパーって強めに背中を殴ってくる。
痛くねーよ。全然痛くねぇ。
むしろ、睨んだり、殴ったり出来るこの距離が、すげー、あったかい。
牧野に案内されて地下鉄に乗り込むと、中はそこそこ混んでいて座る席はない。
「道明寺、立ってても平気?」
俺を除きこんでくる牧野。
俺は返事のかわりに、こいつの腕を掴みドア付近の人が少ない所に連れて行く。
並んで立ち、俺は上の広告やら路線図やらをキョロキョロ眺めてると、
「乗ったことないから、すごい挙動不審。」
牧野が俺を見て言う。
「大丈夫かよっ。こんな箱みてーな乗り物で。」
「この箱で毎日、何万人って人が動いてんの!
坊っちゃんには分かんないのよ。」
「坊っちゃん言うな。久しぶりに聞いた。」
そう言って、俺が笑うと、
「ここにいる人たちは、道明寺とは住む世界の違う人よ。」
って寂しそうに言いやがる。
だから、俺は言った。
「俺の世界には来れねぇかもしれないけど、
俺はおまえのいる世界なら行ける。」
そう言った俺を一瞬ビックリした表情で牧野は見たが、すぐに視線を反らし、うつむいた。
そのあと、駅についてマンションが見えてくるまで俺たちは何も話さず、ただ無言で歩いた。
あともう少しというところで、俺は
「牧野。」
「……ん?」
「俺、この間おまえの働いてる学校、見に行ってきた。」
「えっ?」
「いいとこだな。静かな場所で。
回りに自然がいっぱいあって、花もすげー咲いてんの。学校じゃねえみたいだった。
すげー綺麗な世界で、なんか知らねぇけど、
泣きそうになったわ、俺。」
俺の震えそうになる声に、
「道明寺?」
不安そうに俺を見上げる牧野。
俺は堪らなくなって牧野の頭を撫でようとした時、こいつはそれに気付いたのか、さりげなく俺との距離を広げた。
ああ……、今の俺らの距離はこれなんだ。
手先が冷たくなるのを感じる。
「今日はありがとな。……もう部屋に入れ」
「うん。じゃあ。」
「ああ。」
牧野がマンションに入って行くのを眺めていると、ふいにあいつが振り向いて、
「そういえば、道明寺、どうやって帰るの?」
と、聞いてくる。
「通りまで出て、車呼ぶ。」
そう答えると、
「っ!車呼ぶって、あんたそれならはじめからそうしなさいよっ。なんで地下鉄乗って、歩いてんのよっ!」
バカか……
「おまえと少しでも一緒にいてぇからに決まってんだろ。もうおせー時間だから、でかい声だすなよっ。」
そう言って、俺はマンションを後にした。
今、おまえはどんな顔してんだよ。
赤くなって照れてくれてることを……祈る。
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