牧野と交わした約束の4年をとうに過ぎ、今年で6年目。
4年目の冬、「あともう少しかかりそうだ」と言った俺に「わかってる。」と、小さく微笑み、それ以上何も言わなかったあいつ。
俺はそれをいいことに、ずるずるとNYでの生活を続け、気付けば6年もあいつを一人日本においてきた。
はじめの頃は頻繁に日本に帰ってた俺も、仕事の量が増え…………いや、言い訳だな、あいつがどこにも行かねぇと安心しきってた俺は、年々日本に帰る回数も減り、その代わりあいつが仕事の休みを取って、年2回ほど会いに来るようになった。
電話もほとんど掴まらねぇ事が多く、そのうちメールで済ますようになり、最近一番近いメールと言えば、あいつがNYに来るという事と日時だけが記されたもの。
その前は……2か月前にあいつから「元気?」と一言入った簡単なものが送られてきて、それに返事をしたかどうかは……覚えていない。
パーティーの日にF3から言われた言葉が頭から離れない。
『おまえらの関係は何なんだよ。』
『牧野を手放してやれ。』
それは、牧野と別れろってことなのか……。
パーティーが終わって3日間、あいつに電話をし続けてるが、出てくれる気配は全くねえ。
今さら言ってもおせーかもしれないが、俺はこの6年、いや牧野と出会ってからずっと、あいつ以外の女にきょーみを持ったこともない。
もちろん、遊びでも一夜限りでも、他の女を抱いたこともないし、抱きたいとも思わない。
純粋に俺の心の中にはあいつがいて、俺の彼女という特等席は、常にあいつの為にあった。
昔のように激しく想いをぶつけて
『愛してる』と、囁くことはなくなったが、それでも俺はあいつを愛しているし、あいつもそれを分かっていてくれてると疑いもしていなかった。
けど、いま思えばもうどのくらい牧野に『愛している』と言ってないだろう。
そして、どのくらいあいつから『愛してる』と聞いていないだろう。
はにかんで、真っ赤になりながら
「私も愛してる」と言うあいつを
……俺は大好きだった。
それから牧野の声を聞けたのは、1週間後だった。
13時間の時差は思いの外障害になり、俺の仕事が終わる頃にあいつの仕事が始まるという、最悪のループ。
それでも、仕事の合間に少しでも声が聞きたくてかけてみるが、いつも留守電が虚しく響く。
もう何十回とかけているあいつの携帯にも着信履歴が残っているはずなのに、かけてこねぇのは……そういうことなのか?
俺は信じたくねぇ思いで、毎日あいつにコールし続けた。
そして今日、ようやく聞けた牧野の声。
「もしもし?」
「牧野か?おまえ何回も電話したんだぞ。」
「何かあった?メールしてくれればよかったのに。」
こっちの気など知らねぇこいつはのんきな声で言いやがる。
「おまえ今日休みか?」
「そうだけど。」
「牧野。おまえ俺になんか言うことねーの?」
「なに?…………先日はお邪魔しました?」
「バカ。ちげーよっ。……仕事のことだ。
「あー。……F3から聞いたの?」
「ああ。」
「夢かなっちゃった。」
へへへと笑う牧野。
「あたし、前に道明寺にも言ったと思うけど、先生になりたかったの。ダメもとで試験受けてみたら、なんと合格。すごいでしょ。」
「おまえ、なんで俺に言わねーの?
またやめろって言われると思ったのかよ。」
「えっ?……違うよ。」
「じゃあ、なんで黙ってんだよ。」
「黙ってたわけじゃないけど……。
言うタイミングを逃したってやつかなー」
って、笑ってるこいつに無性に腹が立ち、
「おまえ、そーいう大事な事はちゃんと言えよ!彼女の職業しらねえ男なんてあり得ねーだろっ!」と、強めに言っちまった。
すると、あいつがそれまでのヘラヘラした声とは売って変わった真剣な声で、
「職業なんて知らなくたって別に何の問題もないでしょ。
あんた1年以上知らなかったけど、何か問題あった?
大丈夫。あたしもあんたのこと何も知らないから。
それが彼氏、彼女の関係であり得ないと思うなら、あたしたちは彼氏でも彼女でもない。
ただの…………なんだろ。友達?知り合い?
そう、知り合いか。」
「おまえ、ふざけんな。」
「ふざけてない。いたって真剣に言ってる。」
「ならおまえは、俺たちが『知り合い』だって言ってんのか?」
その俺からの問いに、長い沈黙のあと
「そうかも。名前は知ってるけど、他は何も知らない…………そんな…知り合い。」
「牧野、この間のことなら謝る。
せっかくおまえがNYに会いに来たのに、俺は仕事になっちまって、長い時間待たせ……」
「いいの。
あたしは、もう、あんたを待たない。」
「…牧野?」
「道明寺、……あたし、もう…一人で大丈夫。
……あんたは自分の人生歩んでよ。
もう、あたしはあんたのこと待つのをやめる。
だからあんたも…………幸せになって。」
俺は牧野の言った言葉を整理することが出来なかったが、ただ一つ理解出来たのは、
「……別れたいってことか?」
「そう。……もう、恋人ごっこは終わりにしよう。」
唐突に突きつけられた『別れ』
ここ何日も考えないようにしてた『最悪の結末』
今、俺は牧野本人から告げられた。
黙ってる俺に
「道明寺には感謝してるの。ありがとね。
……幸せになって。」
そう言って、あいつは勝手に電話を切った。
バカ女。
最後の最後まで、バカ女。
俺をけなせよっ、叱れよっ、嫌えよっ。
それなのに、幸せになれって、
どーしょもねぇバカ女。
俺は今更だけど、
今更だって分かってるけど、
おまえとしか、
幸せになれねぇって思ってる、
バカ男だ。
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