「おまえとメイドがいちゃついてる」
類の言ったこの言葉の意味がおれには全く理解できなかったが、あきらと総二郎も苦虫を噛み潰したような顔をして俺をみている。
「まぁ、司もここに座われよ。落ち着いて話そうぜ。類、おまえもはじめからとばすなっ。」と、
あきらが俺と類の間に入りなんとかその場を沈めた。
「司、牧野とは会ったんだろ?
あいつ、なんか言ってたか?」総二郎が俺に聞いてくる。
「何かってなんだよっ。二日間ここに泊まったけど、別に変わったことはねーよ。」
「ならいいんだけどよ。あいつ急にNYに行きたいって言うし、何かあったのかと思ってよ。」
「久しぶりの再会はどーよ?」
あきらも話しにのってくる。
「おまえらいつから会ってねーの?」
「たしか1年ぶりぐらいかな……。」
俺の答えに
「マジかよっ。」「ありえねー。」と、お祭りコンビが騒ぎ出す。
「電話ぐらいはしてんだろ?」
「ああ。でもよ、あいつ全然つかまらねーのっ。
いつ電話しても出ねぇし。そんなに忙しいのかよ、OLっつーのは。」
その俺の言葉に、ビクッと三人が反応して、俺の顔をまじまじと見やがる。
「なんだよっ。」
「司、おまえ。まさか知らねーの?」
「何がだよっ。…………教えろ!」
「…………牧野、OLなんかとっくにやめてるぞ。
今は高校の国語の教師だよ。」
「き よ う し ?」
「教師だ。センセーだよっ!」
センセー?あいつが?
牧野が英徳大学で教員免許を取るため勉強し、資格を得たのは知っているが、卒業したその年に学校の先生になると言ったあいつに、俺は猛反対をした。
ただでさえ時間がなくて会えねえ俺らなのに、あいつがセンセーなんかになったら、忙しくて会う暇なんてねえかもしれない。
それに日本に戻ったら、すぐに牧野と結婚したいと思ってた俺は、あいつがどこで働くかなんて、たいして重要だとは思ってなかった。
けど、昨年あいつはOLをやめて、教員採用試験を受け見事に合格。
そして、今は都内の私立高校の教師になったらしい。
俺はこいつらから聞く牧野の『いま』を、まるで他人事のように聞くしか出来なかった。
教師になってもう1年以上経ってるということか。
「あいつ、なんで言わねーんだよ。」
「言わないんじゃなくて、おまえが聞かなかったんじゃないの?」
類が静かに言った。
「司さー、一年ぶりに牧野に会って何話したの?仕事の事とか、家族の事とか聞かなかったの?」
「そーだよ。仕事の話題になれば牧野だって司に話すだろ?」
「いや、……仕事の事は話さなかった。」
「なら、なんの話ししたんだよっ。」
そう聞かれても、
「わかんねえ。……あいつの事はほとんどきいてねえ。」
「やっぱり。」
類が呟く。
『言わないんじゃなくて、おまえが聞かなかっただけ。』
さっき言われたこの言葉が胸に突き刺さる。
お祭りコンビもいつものおちゃらけた雰囲気はなく、深刻な目で俺を見つめる。
「司、おまえ二日間、牧野と何してすごしたんだよっ。」
一年ぶりにあった牧野は少し痩せてて、抱き締めた俺の腕の中で「元気だった?」と、呟いた。
どこか好きなところに連れていってやると言った俺に「二人で街をブラブラ歩き、普通の恋人同士のように過ごしたい。」と、かわいい事を言った。
二人で手を繋ぎながら街に出てブラブラとショッピングを楽しむ……はずだったが、一時間もしないうちに仕事の電話が入り、その日は夜までマンション戻ることが出来なかった。
遅くなった俺にあいつは飯も食わずに待っていてくれて、外に出て食べることが面倒だった俺は、ダリィの作るプロ級のディナーをマンションで
牧野にも食べさせた。
次の日は、昼過ぎに目を覚ますと牧野の姿は部屋になく、ダリィに聞くと映画を見に行くと言って外出したと聞いた。
俺は、昨日牧野が見たいと言ってた映画館に行き、チケットを買って中に入ると、後ろから二段目の席にあいつが一人で座ってた。
俺は何も言わずに隣に座ったが、ラブコメディのその映画をみながらあいつはなぜか泣いていた。
そして今日、あいつが日本に帰っていくのをこのマンションで見送った。
俺の話を聞いていた総二郎が
「どっからどう手をつけていいのか分かんねぇくらい、突っ込みどころ満載の話だなっ。」と言い
あきらも、
「まぁ、要するに一年ぶりに会いに来た牧野を、ほぼ二日間ほっといたってことだよな?
んで、おまえのことだから抱くだけ抱いて、帰りは空港にも送ってやらねえで、ここでサヨナラか?」
「さいてーだね。司。」
反論することが出来ねぇ俺に、
あいつらは至極全うな事を言った。
「司、おまえさ、NYに来て何年目だ?
牧野に約束したんだろ?4年って。」あきらが言う。
「6年目だよな。
おまえにとって牧野は何なんだ?
1年間も会わないで、電話もほとんどしないで平気でいられる関係って、何なんだよそれ。」
総二郎が言う。
「司、…………もう牧野を手離してあげなよ。
司には牧野を幸せに出来ない。
司はもう…………たぶん牧野を好きじゃない。」
類が言った。
牧野を手離す?
俺は牧野をもう好きじゃない?
考えもしなかった。
俺の人生から牧野を消すなんてこと。
でも、ふと思った。
あいつの人生に俺は必要なのか…………。
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