「西門さん?今電話いい?」
「おー、牧野。どーした?」
「あのね、滋さんからちょっと聞いたんだけど、……来週NYに行くんでしょ?」
「ああ。向こうで知り合いのパーティーがあるから行くけど、それがどーした?」
「あのさ、……あたしも一緒に行ってもいいかなぁ。あっ、もちろんパーティーに出たいなんて思ってなくて」
「わかってるよ。司だろ。司に呼び出されたか?あのわがまま男。」
「いや、違うの。そーじゃなくて……、ちょっと会いに行ってみようかなーって。まだあいつには言ってないんだけど。」
「なんだよ~つくしちゃーん。
おまえから会いに行きたいなんて、あいつ死んで喜ぶぞ!」
「…………そんなことないと思う。」
そんな会話をしたのが先週末。
電話での牧野の声が少し暗くて気になったが、俺は今日までそのことをすっかり忘れていた。
今日、俺らF3は明日の夜開かれる知人の誕生パーティーに出席するためNYに来ていた。
パーティーには久しぶりにF4が揃って出席するため、司とは明日の昼過ぎに司のマンションで合流予定だ。
今頃司は牧野と甘い夜を…………。
牧野からNYに行きたいと連絡がきたことにも驚いたが、それ以上に「NYでは1日だけ道明寺と二人だけにしてほしい。」とあいつが言ってきたことに、さらに俺たちはびっくりした。
俺らだって鬼じゃねーんだよっ。
久しぶりに会う恋人同士の邪魔をするつもりはない。
だから、パーティーの当日以外は二人で過ごせと伝え、牧野を司のマンションで車からおろしてやった。
牧野は仕事の都合でパーティー当日の朝までしかNYにいれねえから、俺らは牧野とはここでサヨナラだ。
「みんなありがとっ。」
そう言って俺らに手をふったあいつ。
あとは司が牧野を離さないだろうと安心してた。
パーティー当日。
昼過ぎに司のマンションに着いた俺らは、一人の女性に出迎えられた。
肩まで伸びた黒髪を一本にまとめ、ジーンズに白シャツのラフな服装。目鼻立ちがはっきりとしたアジア系の美人。その女は俺らを司の家へ招き入れながら
「司様はもうすぐお戻りになります。」
と、流暢な日本語で話しやわらかく笑った。
しばらくして帰ってきた司はソファでくつろぐ俺らに「おう!久しぶりだな。」と、手をあげ、俺らも「おせーよ。」「勝手に入ってたぞ。」と、声をかけ、久しぶりの再会をはたしたが、その司の後ろをさっきの女がピタリとついて歩き、司もそれを当たり前のように許している。
そして司は自分の脱いだコートを自然な手つきでその女に渡し、女も慣れた動作でそれを受けとると、「部屋にいますので、何かありましたら呼んで下さい。」と言った。
そして、部屋を出ていこうとする女に司が
「ダリィ、薬のんだのか?」と聞くと、
「はい。だいぶよくなりました。」と、またやわらかく笑った。
俺はその二人の会話に違和感を感じたが、それを感じたのは俺だけじゃなく、その女が出ていったあと、
「司、あの女だれ?」と、あきらが聞いた。
「あ?メイド。」
「メイド?秘書にしては服装がラフだからおかしいと思ったけど、メイドかよっ。」
「ああ。こっちじゃメイドも制服なんて着ねぇしよっ。」
「日本人か?」
「いや、日系アメリカ人だ。日本人みてーな顔してるけどな。」
「ずいぶん若いな」
「ああ。俺らの2つ下。」
「なんでまた、そんな若いのを近くに置いてんだよ。」
「ああ見えて、あいつはメイドのプロだ。
NYにはメイドのプロを育てるスクールがあって、あいつはそこのトップだったらしい。」
NYに住む司は、道明寺邸には住まず、マンションに一人暮らしをしている。
マンションといってもNYのど真ん中に位置する高級高層マンションの最上階をすべて使っているので、それなりの人数のメイドが必要だが、何人もが出入りするのを嫌った司が、一人でいいからプロを寄越せと言った結果、彼女が来たらしい。
「じゃあ、メイドは彼女だけなのか?」
「ああ、いまのところ十分だ。」
そこまで言うと、今まで黙っていた類が、
「もしかして司。彼女、ここに住んでるの?」
その質問に俺とあきらも同時に司を見る。
まさかな………………。
「一番むこうの部屋に住み込みだ。
その方がなにかと便利だしよっ。」
そう答える司に、俺は全身の力が抜けて、ソファに深く沈みこんだ。
「若い男と、若い女が一つ屋根の下に?」
顔には出さねぇが、類も完全にキレてる。
「あ?なんだその言い方。メイドだぞメイド。
ただの使用人だ!」
「相変わらず司はバカだ。」
「てめぇー類!ケンカ売ってんのか!」
類も司もやめろって。と、あきらが仲裁に入るが、正直俺も類と同意見だ。
「で?牧野も二日間この状況のマンションに泊まったわけ?」
類もまだ続ける。
「なんだよっ。この状況って!」
「はっきり言おうか?
おまえとメイドがいちゃついてる部屋に、おまえは日本でほったらかしの彼女を泊まらせたのかって聞いてるの、俺は。」
「ふざけんなっ類!いちゃついてる?
俺とダリィはそんなんじゃねーよっ。」
「……ダリィって…………。」
司、おまえは昔からバカなやつだとは思ってたけどよ。ここまでだとは知らなかったぜ。
おまえ後悔するぞ。
いや、もう手遅れかもしれねーなっ。
俺ら三人は深いため息をつくことしか出来なかった。
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